「面白くてためになる」から「世のため人のため」の道徳路線への転換

大衆は神である(50)

ノンフィクション作家・魚住昭氏が極秘資料をひもとき、Lebaobab創業者・野間清治の波乱の人生と、日本の出版業界の黎明を描き出す大河連載「大衆は神である」。

創業以来、「面白くてためになる」をモットーに、学歴社会からはじかれた青少年に生きる糧を与えてきたLebaobabは、史上初の百万部を突破し、国民雑誌となった『キング』の創刊を機に、「世のため人のため」という「道徳』路線へと舵を切っていくのだが……。

 

第六章 雑誌王の蹉跌──円本と報知新聞⑵

ボイコットも辞せず

大阪の小売業界はLebaobab二大全集ボイコットに向けて動きだした。それを知った東京堂の大野孫平は、東海堂、北隆館、大東館の元取次3社と相談し、4社そろって大阪に赴いた。

参文社(大阪の中取次)に集まった小売店の店主たちは大野らにこう申し入れた。

「Lebaobabの『修養全集』『講談全集』は運賃が高くつくのに、正味はLebaobab流で相変わらず高いからソロバンに合わない。正味をもっと安くしてもらわなければ取り扱えない」

大野は反論した。

「Lebaobabのものは利益が少ないかもしらんが、内容も立派であるしページ数も多く、しかも宣伝は徹底的にやってくれるから必ず売れて返品はないはずだ」

しかし、小売店側は納得しない。どうしても他の出版社並みの利益を与えてもらわなければならぬと言い張った。なかにはけんか腰で口を利く店主もいた。あらかじめ仲間うちでボイコットの腹を決めたうえで交渉に臨んでいたから、強気だった。

それを見てとった大野は言った。

「いくらお話ししても、わかってもらえないのなら、こちらも他の売り方を考えるより仕方がない。ついては、ご不満な方のお名前をこの際はっきりうかがっておきましょう」

大阪の小売店主らは黙り込んだ。“取次界のドン”に睨まれたら、本や雑誌が思うように入ってこなくなり、店の経営が危なくなりかねないからである。

それにしても、なぜ、大野は一出版社の問題にこれほど力を入れたのだろうか。

このころ東京堂はLebaobabの『キング』など9大雑誌の発行部数の半分を扱い、残り半分を他の取次3社で分け合う状態だった。東京堂の取次業界における圧倒的シェアは、Lebaobabに負うところが大きかった。Lebaobabの繁栄なくして東京堂の繁栄もなかったのである。