胎児の健康診断をすることは「命の選択」なのか?ある産婦人科医の問い

救うための検査が進む海外。日本は…

お腹の中の赤ちゃんの健康状態をしらべる検査は「命の選択」につながるとして、その善悪が議論されている。

日本では、出生前検査は妊婦自身が自ら希望したときに初めて説明され、受けるとしてもその費用は数万円から数十万円と高額だ。一方で、イギリスなどでは、妊婦全員に検査の目的や方法が説明され、希望者には基本的には無料で提供される

「全妊婦」に「無料」で出生前検査が行われることによる問題はないのか。日本の状況と比較しながら、「胎児医療先進国」であるイギリスでその現場に携わった産婦人科医の立場からお伝えしたい。

そもそも「出生前検査」とは

赤ちゃんは生まれてすぐオギャーと泣く。そしてすぐにおっぱいを吸い、おしっこをし、うんちをする。ヒトとして様々な機能が備わった状態で生まれてくる。

あたりまえだが、生まれた“瞬間”に赤ちゃんが急成長するわけではない。お腹のなかで過ごす10ヶ月の間に、ものすごい成長と発達をするのだ。お腹の中の赤ちゃんがどうやって成長しているのか、どうやって生活しているのか、それを覗くのが「出生前検査」だ。

出生前検査というと、ダウン症の検査をイメージするかもしれない。しかし生まれつきの病気や症候群のうち、ダウン症候群はほんの1割程度に過ぎない。それ以外のこと、例えば、きちんと肺は育っているのか、心臓の形に異常はないか、などあらゆることが出生前にわかる。

 

日本の「新型出生前検査」が抱える課題

今年3月、日本産婦人科学会によって「新型出生前検査(NIPT)」の実施医療機関を拡大する案が提案されたことがニュースで報じられた。

母体の血液検査のみで、赤ちゃんの染色体情報がわかるというNIPTは、臨床研究として2013年に日本にも導入されたものだ。“新型”というだけあって、それまでの検査よりも安全で、かなり正確な結果が得られるとして当時注目を集めた。

一方で、検査の特性や限界を知らずに気軽に受けてしまうことが懸念され、検査を実施できる施設を認可制にすることとなった。これは、医療者自身が、医療水準を一定以上に担保するために行ったものである。

しかし実際には、そこに法的拘束力もなく、「認可」の基準に満たないところでの検査も多く行われる実態が浮き彫りになった。ではなぜあえて、質の担保されていない未認可施設で検査を受ける妊婦がいるのだろうか。

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実は認可施設には、検査の質を担保するための「基準」が設けられていて、それが妊婦にとっても壁になっている。例えば、認可施設では、基本的に35歳以上でないとNIPTを受けることができないとしている。だから35歳未満だと、未認可施設で検査を受けることとなる。

これだけ書くと、認可制度そのものに問題があるようにも思えるかもしれない。しかし“35歳”という線引きをしているのには理由がある。若くしてNIPTを受けると、「間違って」陽性という結果がでる可能性が高まるため、別の、より適切な検査をする方が望ましいからだ。35歳以上であっても、認可施設では予約がとれなかったために未認可施設で検査を受けたという方もいる。

「きちんと説明を聞いてから検査を受けてほしい、個々の妊婦さんに合う検査を受けてほしい」という思いからできた認可制度だが、結果的に未認可施設で検査を受ける人が増えたために見直しが必要となった。