“くしゃみ”一つから、ペニシリンを発見した天才の「スゴイ想像力」

偶然が重なってできた奇跡の薬

ズボラで好奇心が旺盛な博士

つい50年ほど前まで、人類は細菌との戦いには無力で、指先の小さな傷、ちょっとした虫刺されで、命を落とすことも稀ではなかった。この状況を一変させたのが、抗生物質「ペニシリン」。近代医学の勝利ともいえる世紀の発見だったが、そこに意外な逸話があったという。

1922年、イギリスの科学者・フレミングが、細菌を培養する実験をしていた。その時クシャミをしてしまい、鼻水がシャーレの中に飛び散った。ところが翌日見てみると、鼻水の周囲だけ細菌が増殖していなかったのだ。

フレミングは、鼻水だけでなく、涙や唾液などにもこの「殺菌効果」が見られることを見出し、酵素の働きによるものだろうと推定した。そしてこの酵素を、「分解酵素」の意味を込めて「リゾチーム」と命名。成果を論文に著したが、全く注目されなかった。

だが、このリゾチームの研究が、その後、ペニシリン発見へと大きく貢献することになる。

 

'28年、フレミングはブドウ球菌の培養に使ったシャーレを、流しに放置したまま旅行に出かける。シャーレは消毒液に浸してあったが、山のように積み上がっていたため、一部が消毒液からはみ出していた。

休暇から戻ると、はみ出したシャーレにアオカビが生えていたが、よく見るとカビの周囲だけ細菌が増殖していないことに気付いたのだ。

その時、彼の脳裏をリゾチーム発見時の記憶がよぎった。鼻水に抗菌作用があるなら、カビもまたそうではないのかと。

アレクサンダー・フレミング博士(Photo by gettyimages)

カビの専門家に聞くと、このカビはペニシリウム属に属するものだとわかった。フレミングはここから名を取り、抗菌物質を「ペニシリン」と命名し、発表。やがて何百万もの命を救うことになる大発見が、世に明かされた瞬間だった。

フレミングは後年、「私は細菌で遊ぶ」と語ったほど、嬉々として細菌で色んな実験をして、珍しい現象を見つけては喜んだ。その旺盛な好奇心と、ちょっとズボラな性格が、「奇跡の薬」発見の糸口となったのだ。(征)

『週刊現代』2019年4月20日号より