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民事再生からV字復活を遂げた「究極のシニアビジネス」の手法

キーワードは「100%顧客目線」

『ハルメク』という雑誌をご存知だろうか?出版不況の中、 2019年4月現在、23万部もの実売部数を誇り、購読者数は右肩上がりの雑誌だ。実は発行元の株式会社ハルメクの前身は、2009年に民事再生法適用を申請した会社だった。その後2018年4月にホールディングス化。グループ7社、社員約270名に規模を拡大し、新規事業も積極的に展開している。

2017年度の売上高は103億円で、まさに「V字回復」と言える。しかもその業務内容は、民事再生法適用の前から変わっていないシニア向けのビジネスなのだ。民事再生から一転、成長を続けている、その秘密に迫る。

取材・文/長谷川あや

 

雑誌『いきいき』も売れていたが

50代以上の女性をターゲットとした、月刊誌『ハルメク』は実売23万部。書店販売なしの定期購読の雑誌では、異例の数値だ。

前身となるユーリーグ株式会社(以下、ユーリーグ)は、2009年に民事再生法適用を申請。投資会社のジェイスター(J-STAR)から再生役を託されたのは、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、コールセンターアウトソーシングを手がけるテレマーケティングジャパン(現TMJ)で、コールセンターアウトソーシング事業の発展に取り組んだ、宮澤孝夫氏だった。

なぜ宮澤氏は、門外漢であり、斜陽産業と言われる出版業界に足を踏み入れたのだろうか。

「今度は、投資ファンドの投資先で働きたいと思い、2008年6月にTMJを退社しました。退職の前後から就職活動を始めていた当初は、活動の進捗情報をエクセルで管理するくらい順調だったんです」

しかし、8月のリーマンショックを境に、すべてが白紙になった。経営者として脂の乗り切った、52歳のときだった。「時間を持て余して、テニスばかりしていましたね(笑)」と語る宮澤さんに、ユーリーグの経営再建の打診があったのは、2008年末のことだ。

2008年9月15日、アメリカ大手投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングス破綻のニュースは世界中を駆け巡った。10月6日にはCEOリチャード・S.ファルドJr.の聴聞会が開かれ、マスコミが押し寄せた。宮澤社長は小さいながら大手企業の破綻の影響を受けた一人だった Photo by Getty Images

「『50代からの女性がより良く生きることを応援する』という理念に魅力を感じました。これからシニアビジネスは発展していくと、だいぶ前から言われていましたが、未だこれといったものはありません。ビジネスモデルとして洗練させていけば、面白いものができあがるはずだと思いましたし、高齢者中心の社会へと動くなかで、社会全体がいい方向に向かっていければいいと思いました」

「信用の回復」からスタート

宮澤さんがいきいきの経営を手がけるようになり、最初に行なったのは、当時すでにまわらなくなっていた、「通販事業を再開すること」(宮澤さん)だった。
「いきいきの収益源は通販事業ですが、当時は、債務の返済が滞り、取引先に取引の停止を通告されました」

そこで、仕入れ先、システム、物流、コールセンターの委託先など、取引先を集め、現状を説明。「会社は今、こういう状況にあります。こんなふうに会社を変えていこうと思います。質問にはすべてお答えしますので、なんでも聞いてください」と伝えたという。怒鳴られもした。当然ではあるが、前金や即金での支払いを求められることも多かった。それでも、理解を示し、協力を申し出てくれる人もいた。

「これがひとつの節目だったと思います」

その後、3ヵ月で事業を再開。物流は、「契約を解除されてしまったので、システムを作り直しました」。注文を受けたまま、半年前後、商品の発送が滞っていた顧客には、去年注文いただいた商品を送ってもいいかどうか、ひとつひとつ確認してから発送した。