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「沙知代、お前は幸せだったか…?」妻に捧げるノムさんの愛惜の想い

「大丈夫よ」と妻は言った…

いつもの昼過ぎ、沙知代の変化

涙は出なかった。

私の妻、野村沙知代が逝ったのは、2017年12月8日の午後だった。

私の体はプロ野球の世界にどっぷりつかって生きてきたせいで「ナイター」仕様になっている。起きるのはいつも昼の12時を回ってからだ。

 

その日も午後1時ごろに目が覚め、お手伝いさんがつくってくれた朝食兼昼食を食べたあと、応接間でテレビを観ていた。

すると、お手伝いさんが「奥様の様子が……」と私を呼びに来た。

ダイニングへ行くと、妻がテーブルの上に突っ伏していた。

背中をさすりながら声をかけた。
「大丈夫か」

沙知代は少し強気な声で言った。
「大丈夫よ」

それが最後の言葉になった。

あの沙知代がまさか死んでしまうとは。

あらゆるものに抗って生きてきた女が、最後の最後、もっとも抵抗すべき死をこんなにもあっさりと受け入れてしまうとは。

直前まで、あんなにぴんぴんしていたというのに。

私は口癖のように「俺より先に逝くなよ」と妻に言っていた。返ってくる言葉はいつも同じだった。
「そんなのわかんないわよ」

極度な心配性の私は、そんなことがあるはずはないと思いながらも、万が一のことを思って妻にそう釘を刺していたのだ。