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平成の時代のほろ苦い群像劇…「横道世之介」がかえってきた

吉田修一さんインタビュー

52社も受けて内定ゼロ

―10年前に刊行されたユニークな青春小説『』。お人好しの主人公が引き寄せる温かなハプニングが連なっていく物語に、多くの人が魅了され、高良健吾さん主演の映画も大ヒットしました。

しかし、「ある結末」が作中で明かされていただけに、こうして続編が描かれるとは思いませんでした。

僕自身、続きを描くことは全く考えていなかったんです。でも『小説BOC』という雑誌で連載したのですが、その雑誌のメインが錚々たる8作家による競作企画だということを知りまして……。そんな豪華企画に、たったひとりで立ち向かう時点で完全に「負け戦」じゃないですか(笑)。

 

そんな負け戦でも最後まで寄り添ってくれるような人間はいないだろうかと考えていた時に、ふと世之介のことが思い浮かんだんです。あいつだったら、きっと俺の骨を拾ってくれるんじゃないかなって。

―前作の舞台は'80年代後半、バブル華やかなりし頃に上京した主人公・世之介のいかにも「あるある」な大学生活が、絶妙な塩梅で活写されていたのに対し、本作の舞台は'93年。

就活の売り手市場からあぶれてしまった世之介が、バイトとパチンコで食いつなぐところから幕をあけます。

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大学に行くにしろ行かないにしろ、高校を卒業した後の1年間って、上京したり初めてバイトしたり車の免許を取りに行ったり、多くの人が通り過ぎる人生の1コマが詰まっている期間ですよね。今作でも、そうした共通体験を描こうとして思い当たったのが、いわゆる「人生のダメな時期」だったんです。

―実際、52社も受けて内定ゼロの世之介をはじめ、自己啓発セミナーにハマってしまう友人・コモロンや、女性というだけで修業先の寿司屋で酷いいじめを受ける浜ちゃんなど、登場人物をめぐるシビアな状況がリアルで、他人事に思えません。

前作を書いたときは、僕と同時期に青春を過ごした人たちが賑やかな情景を懐かしんで共感してくださることが多かったのですが、今作は当時を知らないはずの若い人たちから嬉しい感想をいただけることが多くて。

もしかしたら、日本はあの頃に始まった息苦しさ、重苦しさがずっと続いているような状態なのかもしれないな、と思いました。と同時に、世之介という主人公を今このタイミングでひっぱり出した必然性を改めて感じています。