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リーマン級の株価下落で、公的年金の評価損は「40兆円」を超える

それでも長期分散投資を続けるべき理由

株式運用は博打ではない

昨年末の日米を含む世界的な株価急落後、円相場はやや遅れてやはり円高に動いた。株価はその後やや持ち直し、小康状態となっている。

先に当サイト、「米国『景気後退』が始まると…円高・株安再来の足音が聞こえてきた」(2018年12月20日)で書いた通り、最終的には2020年頃に米国が景気後退に入ると私は予想している。今後は世界経済全体の減速に連れて企業業績の下方修正が続き、日米欧の株価は多少の戻りを伴いつつも中期トレンドは下落になるだろう。

株価の下落は個人、法人投資家全てにとって嬉しいことではないが、とりわけGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にとっては、日本国債の保有比率の引き下げと内外株式比率の引き上げという、ポートフォリオの内訳変更をした2014年度以降で、次の景気後退は初めてのものになる。

公的年金資金という超長期の運用のパフォーマンスを四半期や単年度の成績で議論するのは意味がない。これは、ほとんどの金融投資関連の識者のコンセンサスであるが、2015年7-9月期にGPIFが7.9兆円の運用評価損を公表した時は、民主党など野党の政府批判が強まった。(参照:)

「公的年金の準備金という国民の資産を危険に晒している」というこうした批判は、長期・分散の株式投資を「博打」と勘違いしているようなものだ。

株式などリスク性資産を十分にリスク分散した形でポートフォリオに加えることで、短期・中期ではリターンの変動性は高まるが、長期ではリスク・プレミアムの分だけ高いリターンが得られる。

こうした金融投資論のABCすら理解していない野党の議論に私も唖然とした。安倍政権を批判できそうな材料なら何でも投げつけるという政治的な思惑から生じたものだろう。

次期景気後退期の本格的な株価下落局面でも、この問題は愚かしくも再燃する可能性が高い。

そこで事前に単年度でどれほどの評価損が生じ得るか試算を示そう。その上で、公的年金の積立金が外国株を含むリスク性資産を保有することには、単に長期的なリターンを向上させる以上の意味があることをご説明しよう。

 

GPIFの評価損益の試算

GPIFの運用額は約170兆円(2018年9月末時点)と巨額ではあるが、その大層はパッシブ運用であり、運用成績は内外の代表的な株価指数や債券指数にほぼ連動している。従ってこれら株価指数の変動を想定すれば、その損益成績は簡単に近似的に推計できる。

ここでは変動性が高い海外株式については世界の株価指数であるMSCI-Worldにドル円相場を乗じて円換算にしたもの、海外債券については米国長期国債を対象にした指数(S&P US Treasury Bond 7-10 Year Index)を同様に円換算したもの、日本株については日経平均株価指数、国内債券については日本長期国債の価格変化に基づいて生じ得る評価損益を推計してみよう。

変動性の高い内外の株価指数の推移は図表1の通りである。

まずリーマンショックでGPIFが9.4兆円の運用評価損を出した2008年度(2009年3月期末)について、期初のポートフォリオ内訳(国内株式、国内債券、外国株式、外国債券)に基づいて、上記指数の前年同月比の変化率で計算すると評価損8.9兆円となる。

これは公表された実績値9.4兆円の損失にほぼ近似する。ちなみにGPIFは翌年度の2009年度(2010年3月期末)には9.15兆円の運用益を上げている。

また2月1日公表予定の2018年10-12月期に生じた評価損益を同様に推計すると、14.6兆円の評価損になる。これは既にちらほら報じられている他アナリストらの推計ともほぼ一致する。

次に2018年9月末時点のポートフォリオの内訳を対象に、リーマンショックの起こった2008年から09年の株価指数等の最大のマイナス変化率(前年同月比ベース)(債券についてはプラスの変化)に基づいて計算すると、図表2の通り評価損は42.6兆円となる(短期資産や日本国債の利回り・価格変化はほぼゼロ)。

言うまでもなくリーマンショックは資産バブル崩壊型の戦後最大の米国金融危機と不況であり、頻度的には30~40年に1回の出来事だろう。通常の循環的な景気後退ではこれほどの世界的な株価の下落は起こり難い。

そこで次の景気後退時の内外株価の下落がリーマンショック級の半分としても評価損は20兆円余となる。 

しかし冒頭に述べた通り、公的年金積立金のような超長期にわたる運用について単四半期や単年度の運用損のみをあげつらい、長期通算の運用成績を見ないというのは、控えめに言っても非合理的であり、はっきり言えば政治的な扇動だろう。

ちなみにGPIFの市場運用開始以来2001-17年度の運用損益累計額は+60.3兆円、年率リターン+3.4%、独立法人化以来2006-17年度は同+49.3兆円、同+3.3%、さらに直近5年度の2013-17年度は同+38兆円、+6.05%である。

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