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高校に行かずに東大教授になった「名物先生」の忘れがたい読書体験

柳川範之の人生最高の10冊

信じられないインパクト

僕は子供の頃、シンガポールとブラジルで長く暮らしました。この海外生活が、読書にも影響を与えていると思います。

まず、小学生の時に行ったシンガポールの家にはテレビがなかったんです。日本ではテレビっ子だったのに娯楽がないから、本や漫画に熱中するようになりました。

シンガポールには華僑が多く、彼らからも、強い刺激を受けました。中国のような大きな国のスケール感のある物語を好むようになったんです。

 

ここに挙げた本の多くは、壮大な長編になったわけですが、なかでも1位の『』は全19巻の大長編です。北宋末期を舞台にした中国の「水滸伝」を原典としながらも、大胆に換骨奪胎し、まったく新しい「北方水滸」を生み出した北方謙三さんの構想力に、とにかく圧倒されます。

登場人物は皆キャラが立っているためすぐに頭に入ってくるし、国家を作っていく話なので組織論・国家論としても楽しめる。凄いなと思うのは、国家を資金的に支える「闇塩の道」というメカニズムがきちんと物語に組み込まれている点です。

政治と経済が絡まりあい、理想と現実がせめぎあう様が骨太に描かれ、一人の人間が書き上げたとは信じられないくらいのインパクトがありました。

2位の『』も中国を舞台にした小説です。こちらの時代は清朝末期。ドラマチックなことが次々に起きるこの時代にまず惹かれますね。

恐ろしい暗殺計画が王宮で実行されたりと、権力闘争や人間ドラマのスケールも大きい。この作品は今では浅田次郎さんの代表作の一つとして高く評価されていますが、僕は刊行直後、評判が広がる前に手に取ったんです。

予断や先入観を持たずに読んだ分、あまりの面白さにびっくりしました。

「旅」がテーマ12作の短編集

『』は宮本輝さんの自伝的大河小説で、第一部が出てから35年以上たっていますが、いまだ完結していないので、最終巻となる新刊を首を長くして待っています(笑)。

このシリーズの面白さは、長い年月をかけて書かれているため、主人公と共に著者も、そして読者も年をとっていくこと。著者の書きぶりの変化を味わえる長編というのは珍しいのではないでしょうか。

僕は圧倒的に第一部が好きですね。敗戦直後の焼け野原から這い上がろうとする、野心と人情に満ちた宮本さんのお父さんをモデルとした松坂熊吾が実に魅力的です。

6位には『』を挙げました。私が十代後半を過ごしたブラジルが舞台で、共感できるところが多かったんです。

日本政府の募集でブラジルに渡った移民たちが、貧困と絶望にあえぎながら、逆境をエネルギーに代えて日本政府に復讐していく。もちろんこれは小説で、エンターテインメントとして彼らの熱い戦いを楽しんだのですが、現実にも移民たちは、大変な苦労をしたし、今もしています。

なぜこんなことが起こるのか。なぜ努力が報われないのか。ブラジルで理不尽な歴史を見聞きし、その原因の一つは経済政策だろうと考えたことが、後に経済学の道を志すきっかけになりました。

冒頭で長編が好きと述べましたが、一冊だけ、短編集を挙げています。

『』は、派手さはないけれど上質な作品。「旅」をテーマにした12作の中で特に印象に残っているのが「アンデスの声」です。僕がブラジルで聴いていたキト(エクアドルの首都)の短波放送が出てくるんですね。

短波放送と聞いてもピンとこない方も多いと思いますが、国際放送などに使われるラジオ放送で、ブラジルで日本語に飢えていた僕は、キトから南米に発信されるこの短波放送を楽しみに聴いていたのです。

たまたまこの本を手に取ったら、内容も素晴らしい上に懐かしい名前が出てきて、忘れがたい読書体験になりました。

ここに紹介したような好きな小説を読むのは、通勤電車の中と決めています。自宅から大学までの行き帰り、各40分が僕の読書時間です。

大学院生からこの生活を続けているので、もう30年になりますね。この習慣のきっかけになったのが『』でした。連続殺人の真相が知りたくて読み進め、最後のどんでん返しに驚愕。

この本を読んでいるときは毎日の通勤が楽しみで仕方なかったですね。以来、ミステリからはじまり、そのうちジャンルを問わず読むようになりました。

通勤時間の読書は頭のいい切り替えになっています。今日は仕事に行きたくないなあという朝でも、本の続きが読めると思うと、よし行くか、と少し体が軽くなるのです。(取材・文/砂田明子)

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