アマゾンCEOジェフ・ベゾス/Photo by Gettyimages

「アレクサ、預金して」…アマゾンが本気で「銀行」をやる日は来るか

規制も追いつかない「怪物企業」の進化
今月、一時にせよ時価総額1兆ドルに達したアマゾン。規格外の「怪物企業」の次の狙いは「金融事業」参入と噂されている。はたしてアマゾンが「銀行」をやる日は来るのだろうか?
米国の投資運用会社で働いた経験があり、『』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が解説する。

「アマゾン銀行」のポテンシャル

アマゾンが「エコー」のAIにこの名前を使って以来、米国では「アレクサ」(アレクサンドラの愛称)という名前を女児につける親が激減した。

アマゾンは先週金曜日に「アレクサ」の音声操作対応電子レンジを発表した。価格は60ドルでポップコーンの自動補填機能までついてくる。今後他の対応製品も続々出てきそうだ。たしかに一家に2人「アレクサ」がいたら混乱するだろう。

さて、アマゾンの時価総額は今月4日の場中に一時1兆ドルをつけた。1兆ドル超えはアップルに続いて2社目。日本円で110兆円という金額は、インドネシアのGDPに匹敵する。日本で時価総額が一番大きいトヨタ自動車の約5倍だ。

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アマゾンの株価収益率(一株あたり利益に対する株価倍率、PER)は今季当期利益予想と比べて110倍と、市場平均と比べて突出している。でも、割高だ、割高だと言われながらこの1年間で株価は2倍になったから、今後の利益成長が極めて高いと期待する投資家の需要が強いことははっきりしている。

では、デジタルとリアル物流の両方で圧倒的なインフラを構築し、本から食料品まであらゆる物を販売する他、動画配信にデータサービスまで手がける怪物企業の次の成長ドライバーは何か? 市場の注目が集まる中、アマゾンが金融事業に本腰を入れて「銀行」をやるのではないかという憶測は強い。

今年春にも、ウォール・ストリートジャーナルが、アマゾンがJPモルガン・チェースと個人向け当座預金口座(小切手や引き落としなど、主に日常の決済に使われる)で提携を模索していると報じた。

アマゾンが本気で「銀行」をやったら、既存の金融機関は蒼くなるだろう。

 

決算情報に基づくと、昨年1年間にアマゾンが世界中で直販した金額だけでも1186億ドル (約13兆円)に上る。第三者の業者がアマゾンのサイトで売った商品の総額(流通総額)については開示がないが、アマゾンが受け取った「手数料」の593億ドルと、15%と言われる手数料率に基づいて推計すれば、3953億ドル(約36兆円)となる。

あわせて年間50兆円。ベルギーやタイのGDPに匹敵する規模の商品がアマゾンで売れていることになる(ちなみに「楽天市場」の国内流通総額は3兆4000億円)。しかも、このとんでもない金額が、まだ年率3割以上で高成長を続けているのだ。

今はこの巨額なマネーは、アマゾンで買い物をする世界中の消費者の銀行口座やクレジットカード経由で動いている。これをアマゾンが直接手がけるようになれば、バイパスされる既存の金融機関にとっては大きな打撃だろう。

また販売業者の売上規模や在庫日数、消費者の購買履歴や趣味嗜好にいたるまでの深く膨大なデータを持つアマゾンが、それを武器にユーザーのニーズや与信能力に応じてカスタマイズされた金融商品を売り込めば、その成長ポテンシャルはきわめて高いだろう。

規制の高いハードル

ではアマゾンがなぜ「銀行」をやっていないか、というと規制である。

日本の規制は、異業種の銀行業参入に対して比較的寛容だ。

楽天はとっくの昔に金融をEコマースとならぶ事業の軸にしていて、営業利益の4割以上を、クレジットカードやネット銀行、証券などの金融事業から稼いでいる。「カードを使えばポイント3倍」などのキャンペーンが功を奏して、今では楽天市場の決済の半分は「楽天カード」で支払われているし、つい最近は買い物ポイントの還元が受けられる積立型の投資信託まで発表された。

日本のコンビニも「セブン銀行」や「ローソン銀行」を作り、ATM以外に預金サービスやローン事業をやっている。これらの流通業者は、決済をはじめとする金融サービスを自ら行うことで、本来なら外部の金融機関に流出してしまう利益を自社に還流させているわけだ。

しかし、これは異業種の金融業参入の規制が厳しい米国ではできない。楽天の三木谷社長は元興銀出身だが、アマゾンの創業者ジェフ・ベーゾス氏もウォール街で働いた経験を持つ。規制がなければ、もっと早くに金融事業を拡大していただろう。

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