# 国境なき医師団

いとうせいこう×白川優子「いま『紛争地で働く』ということ」

難民は「あなた」だったかもしれない

海外の紛争や災害を報じるニュースによって、あるいは名前ぐらいは耳にしたことがあるかもしれない。「国境なき医師団」(Médecins Sans Frontières:以下、MSF)。1971年に医師とジャーナリストによってフランスに設立された非営利の民間医療・人道援助団体である。

多くの日本人にとって彼らの働きは知られていない。なぜわざわざ危険地帯に足を運ぶのか。現地ではどんなことをしているのか。MSFの手術室看護師として過去8年間で17回も紛争地に派遣された白川優子さん、そしてMSFの活動地を取材したルポルタージュを昨年発表している作家・いとうせいこうさんによる特別対談――。

一瞬にして世界が変わる

白川 まず私たちの活動目的の一つは、医療へのアクセスが途絶えた地に医療を届けるということ。たとえば病院が破壊された紛争地で、命の危機に瀕している人々に緊急医療を提供しています。私がで書いたようなイラク、シリア、イエメンは、そうした代表例です。

ただし、私たちの活動地は、紛争地に限らず、それこそ、いとうさんが取材されたフィリピンやハイチといった医師の絶対数が少ない貧困地域や、感染症が蔓延してしまった地域、または病院はあるんだけれども、なんらかの迫害や差別を受けていて医療を受けるための道が絶たれている人々を対象とすることもあります。

いとう 僕はという本を昨年末、出版しました。今、白川さんに話していただいたように、僕の場合は、紛争地に僕自身が行っても役に立たないというか、むしろ危険なことになっちゃう。

MSFのスタッフも、取材を受けている暇がないですよね。僕のインタビューに答える時間があるならば、一人でも多くの命を助けなきゃいけない。ですので、僕はある程度、MSFスタッフを呼びとめて、そこで、どうしてこういうことが起きているのか、どうしてあなたはMSFに入ったのか、ということを聞ける場所に行きました。

そういう意味では、最前線ではなく後方地域。なんだけど、決して白川さんが活動している地域と関係がないかといえばそれは違う。白川さんは本のなかで南スーダンでの活動について綴っていますよね?

 

白川 はい。2012年以降、ひどい内戦が起こっている国で、まさに内戦が勃発する瞬間に居合わせました。昨日まで紛争の影がなかったのに、一瞬にして世界が変わる。私たちがいた街でも、一夜にして15万人の避難民が発生しました。私たちは彼らに医療を提供することに手一杯になっていましたが、避難民の数はどんどん拡がって、その後、隣国に逃げていったんですね。

いとう その結果、報道によれば100万人以上の難民が発生しているそうです。私が取材で現地に行ったウガンダは、南スーダンの真下にあって、どんどん難民が流れ着いている場所です。国境を挟んではいるけれど、僕と白川さんは、同じ紛争を見ていたことになる。

川でたとえると、同じ川だけど、川上と川下という別の地点に立っていたということです。

それだけではない。白川さんは「イスラム国」に支配されていたシリアで医療活動をしていた。一方で、私が取材したのはギリシャ。二つの地は中東と欧州で離れているように思うけど、地図を見ればわかるように、シリアから隣国トルコに抜ければ、そこからギリシャは海を隔てた対岸です。シリアの難民は、トルコ経由でボートに乗って、ギリシャまでやってくる。

ギリシャから、ドイツのように条件のいいところに行きたいんだけれども、国境が封鎖されてからはそこには行けない。なので、ギリシャに留まって、いつまでも難民キャンプにいるんです。そこには医療も必要だし、食料も必要だし、それから子供たちには教育も必要。そういうことをMSFが、あるいはMSFが他の人道支援団体と組んで対処している。そうした現場を見てきました。

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