写真/佐々木芳郎

「お客様は神様」ではありません

たねや社長の新しい「三方よし」とは
筆者の山本昌仁氏は縮小する和菓子業界で成長を続けて「現代の近江商人」とも称されるたねやグループCEO。近著にがあります。たねやのメイン・ショップと本社がある「ラ コリーナ近江八幡」は、筆者がたねやの経営姿勢を表現した、自然にあふれる空間です。不便で派手なアトラクションがないのに滋賀県で一番人が集まる観光地になりました。「お客様が喜ぶことを最優先に考えれば、数字はあとからついてくる」という哲学でたねやを率いる筆者が、「三方よし」に代表される近江商人の知恵を、現代にどう進化させたのか、説明します。

なぜアリが菓子屋のシンボルなのか

ラ コリーナ近江八幡。草屋根がメインショップ、右奥が本社棟。 写真/佐々木芳郎

「ラコリーナ近江八幡」のシンボル・キャラクターはアリです。

お菓子やそのパッケージ、店舗のディスプレーなど、そこかしこにリアルなアリの絵が描かれています。知らずに箱を開けようとして、一瞬「わっ!」と驚かれたお客様もいらっしゃるかもしれません。

シンボル・キャラクターのアリ

従来の菓子屋の常識でいえば、ありえないことだと思います。砂糖に寄ってくるアリは菓子の天敵。しかも、甘いものが好きな女性はたいてい昆虫が嫌いときている。実際、社内からもそんな反対の声が出ました。

それでも強行したのは理由があります。ラコリーナのテーマは「自然に学ぶ」。アリから学ぶべきことがたくさんあるからです。

人間の歴史はたかだか700万年。昆虫の歴史は4億8000万年もあります。昆虫が100万種ほど見つかっているうち、1万1000種はアリです。藤崎憲治先生(京都大学名誉教授)によると「アリは進化に成功した生きもの。昆虫のなかでも、圧倒的に中心的存在」なのだそうです。

永続性にこだわるたねやグループにとって、人間より桁違いに長く繁栄しているアリは見習うべき存在なのです。

アリがすごいのは、高度な社会性をもっていること。しかも、1匹のリーダーが命令をくだしてそれにみなが従うわけではなく、なんとなく列をなして進んだり、なんとなく協力してエサを運んだり、なんとなく複雑な巣を作ったりできる。「群知能」と呼ぶそうですが、1匹1匹は勝手に動いているというのに、全体で見ると集団の利益にかなう行動になっている。

そういう意味で、私の目指す組織のあり方に似ているのです。父の代はカリスマの一声ですべてが動いた。私の代は組織で動く。2000人全員に社長が命令をくだすわけにはいきませんから、一人一人が考えないといけない。それぞれがバラバラに動いているのに、全体としては会社や社会のためになる。それが理想です。

個々が考えて動く組織は強い。これからのたねやにも「群知能」が必要なのです。これがアリをシンボルにした理由です。

 

人から反対されようとも、やるべきことだと思えば実行する。それが私のポリシーです。もちろん、周囲を説得する努力は必要です。そのためには自分の言葉で理由を説明できないといけない。借り物の言葉では迫力不足です。

幸い、アリについてお客様から苦情が出たことはありませんが、もし出た場合は、苦情を言われた「そのスタッフが」、理由を説明できなければなりません。自分の頭で考え、自分の言葉で伝える。簡単なようでいて、非常に難しい作業です。

私の代になって、いわゆる「働き方改革」を始めています。その眼目は「一人一人が創造性をもつ」「それぞれが自分の言葉をもつ」こと。スタッフの意識を変える工夫についてご紹介したいと思います。

危ないから撤去が理想的か?

2017年にオープンした八日市の杜には、店内に火が吹き出す暖炉があります。上向きに火の出る暖炉を買ってきて、自分たちで割ったタイルを張りつけ、オリジナルの暖炉に仕立てました。

「八日市の杜」店内の暖炉は火がむき出し

これを導入するときにも、社内から反対がありました。「危ない」とか「子供が触ったらどうする」とか「柵で囲うべきだ」とか。でも、聞き入れませんでした。ここには私なりのメッセージが込められているからです。

もしお客様から苦情があった場合、私なら、こう説明すると思います。

「熱いものは熱い、冷たいものは冷たい。そう体感できる環境がどんどん減っています。熱くて危険だと思うなら、近づかなければいい。そうするのが人間の本能です。ところが、熱いと感じた経験すらないと、そんな本能も失われてしまう。これが人間にとって、本当に望むべき状態でしょうか?」

青い火は高温だから危険です。赤い火はさほどでもない。暖炉の火は赤いので、上の空間に手をサーッと動かしても、一瞬なら火傷することはありません。昔の人なら誰もが身につけていた知恵ですが、現代人には失われている。

火は熱いものだと体感できる環境をもっと増やしていかないといけない。ラコリーナをアスファルトで覆わないのと同じことです。夏は暑い、冬は寒い、と感じることが大切。自然に学ぶべきだと思うから、あえて暖炉を置いているのです。

火は危ない。だけれども、やのような「火の祭り」があったり、キャンプファイアーに人が集まってくるのは、危険を上回る魅力があるからです。火の周囲に集いたくなるのも、人間の本能だということ。そこを根本から否定してしまうのは、どうなのでしょうか。

こちらの意図をきちんと説明すれば、たいていのお客様は理解してくださいます。世の中全体に、「文句が出そうだから、やめておこうか」という風潮が蔓延している気がします。暖炉は危ないから撤去するというのが、もっとも安易な結論ですが、そんな自粛社会が望ましいはずありません。

もちろん、商いをやっていれば、とんでもない苦情にぶつかることがあります。夏場、店の前に打ち水をしたら「濡れてるやないか」と文句を言われたり。店内にどうしても犬を連れ込むと言って怒り出されたり。朽ちた感じを出す演出をしているのに「鉄が錆びてるやないか」と叱られたり。そこで「すいません」と謝るのは簡単ですが、理想的な解決策ではない。

私たちはお客様の利益を最優先に考えています。儲けることよりも、まずはお客様の喜ぶ顔が見たい。しかし、それは自分の考えを曲げてまで謙ることを意味していません。スタッフにはつねづね「謝るような仕事はしたらあかん。でも、謝る必要のないことに謝ったらあかん」と言っています。

お客様も店員も、同じ人間です。人間同士、お互いを尊重する部分は残しておかないと、おかしな社会になってしまいます。「売り手よし、買い手よし」という言葉のなかには、売り手も買い手も対等だ、という意味も含まれていると思うのです。

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