提供:国立科学博物館

ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう第6回:ジャワ原人研究の聖地

彼らはなぜ滅んでしまったのか?
かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?

なぜぼくたちだけが生き残ったのか?

人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

こん棒を持ったジャワ原人

では、ジャワ原人とは、どんな人類だったのか。どんな環境で、どんなふうに暮らしていたのか。

デュボアが最初の標本を発見したトリニールには資料館があって、基本的なことがまとめてある。1991年に、ジャワ原人発見100周年を記念して東ジャワ政府が建てたものだそうだ。博物館というには小さいが、ガラスケースの中にこの地で見つかった実物の動物化石や、人類化石の標本のレプリカが展示されていた。

もっとも目立つのは、3メートルくらいはあろうかというステゴドンの牙、象牙化石だ。一番大きなガラスケースに入れられて、保管されている。ところどころ折れた跡があるけれど、つなげると見事に一本になる。なるほど、表で出迎えてくれるステゴドンの巨大な像は、こういった化石を元にしているのだろう。

つまりステゴドンは、ジャワ原人がいた時代のジャワ島の動物たちの代表のように思われているらしい。これは予備知識として持っていてもよいだろう。

トリニールの資料館に展示されているステゴドンの牙(筆者写す)
トリニールでぼくたちを迎えてくれた、古代ゾウ(ステゴドン)の模型。第4回に掲載したもの(筆者写す)

では、ジャワ原人は、ステゴドンを狩ったのだろうか。それこそ「はじめ人間」がマンモスを狩ったように。

奥まったところに、ジャワ原人の復元模型があった。それも、ジャワ原人の家族をジオラマ風にして再現してあった。背景には、火山。ジャワ島が火山島だったのは、ジャワ原人の昔からのようだ。そして、ジャワ原人そのものの復元は?

身長は現代人と比べると小さめだ。体は体毛らしいものが表現されていて、腕や背中を覆っている。これも成人男性でとくに顕著だ。

顔は現代人にくらべるとがっしりしていて、目の上に庇(ひさし)のような突き出しがある。いわゆる眼窩上隆起(がんかじょうりゅうき)である。ひとつながりに書くとひどく難しいが、眼窩(頭骨で目玉が入る部分のくぼみ)の上の隆起という、文字通りの意味だ。原人ではこの部分が発達していると聞く。

火山を背にした、ジャワ原人の母子の復元(筆者写す)

そして、なんと、ここのジャワ原人成人男性は、こん棒を持っていた!

これはなんとなく、ぼくらが抱く「原始人」のイメージそのものだ。おそらくは、このあたり、かなり希望的観測というか、思い込み的な知識も含めて復元されていると、あとで知った。実際、最近の大腿骨からの推定では身長もそう低いわけではなく、170~160cmくらいであったようだ。そもそも1991年にできたのであろう展示だ。四半世紀近く前のものなのだ。

資料館のジャワ原人が持っていたこん棒(筆者写す)

宿に戻り、再び、サンブンマチャンの発掘隊と合流した。

その日に見つかった動物化石、スイギュウやらブタやらの破損しているものをボンドでくっつけたり、整理したりしている隊員たちの中で、海部さんは例の「石器かもしれない石」を整理していた。

ジャワ原人がこん棒を持っていた復元像のことを話すと、おかしそうに笑った。

「それは、あまり細かいことを気にしないでつくっていると思いますよ」

海部さんは痩身で銀縁の眼鏡をかけており、マンガなら眼鏡の端をキラリと光らせながら話すようなタイプのクールガイだ。しかし、目の底で笑う。なにかブンガク的な表現かもしれないが、何かを面白がったり、おかしがったりするとき、実際に表情を崩す前の段階で、目の奥のほうで笑っている。

このときも、きっと何かが、おかしかったのである。何も知らずにジャワ原人発掘の現場にやってきた初学者がかならず抱くであろう疑問に、ぼくもぶち当たっているのを見て微笑んだのだ、とぼくは理解した。

「では、サンギラン、行ってみますか。博物館も新しくなりましたし」

海部さんはさりげなく言った。

サンギラン……。初期人類遺跡として、世界遺産にもなっているところだ。

「ジャワ原人が一番たくさん出てきたところですし、僕の研究もそこから始まってますし、ご案内しましょう」

あっさりと、海部さん案内による贅沢なツアーが決まった。

これまた新たな聖地巡礼だ。ジャワ原人を語るには外せない、ということは、世界の原人進化を語るには欠かせない場所である。人類進化のホットスポットと言っても間違いないのである。

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