ミシュランに学ぶ「いい記憶に残る」企業のあり方――信頼される秘密は「体験」にあり!

2015.10.9 FRI

フランスのタイヤメーカー・ミシュラン社が、「モビリティの発展に貢献する」という企業理念を製品以外のもので伝えるために発行するミシュランガイド。世界24ヵ国で年間100万部以上を売り上げる。

いまでこそ自社でメディアを運営する企業が増えてきたが、ミシュランはいまから100年以上前の、1900年から地図やガイドでの情報発信を続けてきた。しかも、直接製品の売上に結びつくような”PR”ではなく、企業文化や理念を伝えることで結果的にタイヤの売上につながるだろうと、顧客(読者)にとってためになる情報を伝える”メディア”的なスタンスを貫いている。

タイヤメーカーでありながら、一見つながりのなさそうな飲食店・レストラン・宿泊施設のガイドを100年以上発行し続けるミシュラン。そこにはどんな哲学や編集方針があるのか?時代の変遷のなかでどんな変化を遂げているのか?

同社におけるミシュランガイドの”本当の役割”を探るべく日本のミシュランガイド事業部 事業開発 担当部長の伊東孝泰さんに話を聞いた。(取材・徳瑠里香、藤村能光[]/写真・斎藤優作)

お店ではなく、お客さまのために

「私たちの目的はいいお店を紹介するということの先に、我々が大切にしているモビリティへの貢献があるので、作り方も普通のグルメガイドとは少し違うんです。とにかく読者にとって役に立つガイドを作ることに徹底しています。」

そのためにミシュランガイドは5つの約束にコミットしている。まず、匿名で調査をすること。取材依頼をするのではなく、一般のお客さんと同じサービスを受けるため複数の調査員が定期的に匿名で一般の客としてお店や宿泊施設を訪れ、料金を自身で支払う。お店にはミシュランに選出されるその日まで調査があったことは知らされない。

「後に撮影に行き、掲載を断られることもありますが、我々はお店のためではなくお客さまのためというスタンスなので、写真なしで掲載することもあります。タイアップではないので見本誌を送ることもしません。」

いわゆるノイズが入らないよう、広告も入れずお店からの依頼も受けず、独立性を担保する。複数の調査員が厳密にすべて同じ方法で、5つの評価基準(①素材の質、②調理技術の高さと味付けの完成度、③独創性、④コストパフォーマンス、⑤常に安定した料理全体の一貫性)を基に調査をし、最終的に合議制で決める。そして、情報が古くならないよう年次更新する。ミシュランガイドはこの編集方針をずっと続けてきた。

「そこまで徹底的にやってようやく、我々が伝えたい価値をみなさんにお届けできると思っています。」

伝えたいのは情報の先にある体験、企業としての価値

日本のミシュランガイドを直接担当するのは、ミシュランガイド事業部 開発事業担当部長の伊東孝泰さん1人。もともと出版取次ぎ店に務め、出版事業にも詳しい伊東さんが社長の直轄で日本版ミシュランガイドの運営を手がける。

2007年に日本で初めて発売された東京版のミシュランガイドは、初日に9万部、4日で12万部、1年間で30万部弱を売り上げた。その後2010年には京都・大阪版が発行され、北海道、広島、福岡・佐賀など調査地域が広がっていった。

「私はもともと出版業界の人間なので、ミシュランガイドを日本で出すということで当初は書籍を刊行する感覚でいたんですが、途中からそうではないことに気がつきました。

ミシュランガイドは、『東京2008』といったように目を惹くタイトルがあるわけでもないし、写真もプロのカメラマンを使っていないし、テキストも短くて簡素なものです。

読み物としての面白さも一部あるかもしれませんが、私たちが伝えたい価値は、ガイドブックそのものよりも、その先にある“体験”にあるんです。だから、ガイドブックとしての質を上げることよりも、いかにお店を使ってもらうかに重きを置く。目的はお客さまに、我々が選んだお店でいい体験をしてもらうことによって、我々が企業として大切にしているモビリティへの貢献を実感してもらうことです。」

ガイドブックは飲食店・レストランでの“いい体験”を通じて、ミシュラン社の企業文化や理念、そして企業として大切にしているモビリティへの貢献を伝えるための一手段にすぎない。ガイドブックを出すことが目的なのではなく、いかに体験してもらうかが重要。その観点から、2012年にはミシュランガイドのセレクションからお店の検索・予約ができる会員制サイト「」をスタートさせた。

「ミシュランガイドを発行した翌年から電子書籍にしないか、という提案をたくさん受けました。各社からのプレゼンを受けたりもしたのですが、そのなかで私たちがやりたいことは電子書籍ではなくインターネットとすごく相性がいいという発見があったんです。レストランのリンクに飛べる、検索できる、予約ができる…いかに使ってもらうかの視点に立って、WEBサービスとしての可能性を感じましたね。」

クラブミシュランは月額324円(年3,240円)のレギュラー会員になると、日本全国のミシュランガイドのセレクションからエリアや評価、料理など詳細な条件から、お店を検索できる。月額5,400円(年額16,200円)のゴールド会員は、予約代行サービスの利用、さらには日本語でパリのミシュランガイドの検索も可能となる。

「本当はもっと簡単だと思います。お金をかけて宣伝をして、もっとわかりやすくすることもできるでしょう。でも私たちがそれをやらないのは、読者やユーザーの数だけではなく、質の部分も担保して、お店のよさを理解してもらい永く使ってほしいと思っているんです。それはタイヤに対しても同じですね。」

ベストよりベター、改善しながら続ける

ミシュラン社の責任と信頼を裏づける一定の変わらない基準があるなかで、各地域にはある程度のローカライズも必要になる。クラブミシュランとしてWEBサービスを開始したのは日本のオリジナル。

「今年で9年目になりますが、根っこの部分は変えずに、日本版としてアウトプットをどう変えていくかという議論は常にあります。ミシュランガイドはもともとシンプルなテキストベースの辞書のようなものでしたが、日本版には写真を掲載したり帯を巻いたり…。世界24ヵ国でまったく同じということはなく、それぞれの地域の文化にあったやり方を模索し続けています。」

“MICHELIN A better way forward”-ミシュラン社が掲げるスローガンにもあるように、常に最良を目指していく。

「アメリカの企業であれば“Best”なのかもしれませんが、私たちはフランスの文化もあるのか常に“better”を意識しています。日本版のミシュランガイドにおいても、1年目よりも2年目のほうがセレクションは充実しているし、9年目のいまはガイドブック以外にもWEBという手段も増やしました。とにかく継続しながら、質を上げていくことが大事だと思っています。」

体験を伝える場所がメディアになる

「我々ものづくりの会社なので、『メディア化する企業』というとちょっと違和感があるかもしれません。ただミシュランガイドは、製品そのものを伝えるのではなく、企業価値を世の中に広げていくためのものという意味では、我々にとっての『メディア』かもしれません。」

そう語る伊東さんにとって、メディアとは「伝える場所」。その意味で、彼がメディアとして注目している企業は航空会社だという。

「たとえば、機内もひとつのメディアになりうると思っているんです。輸送機関ではあるけれど、そこで発信もしていますよね。乗客が向かう土地の特集を機内誌に掲載したり映像を流したり。国内線の最上級クラスでは、その土地の食事を出したり…。そういう体験を作りだしていくこと自体がメディアになりうるんじゃないかと思っています。」

企業が作りだす体験がメディアになる。100年以上同じ哲学を持って続くミシュランガイドは今後、どんな形で“メディア”として発展していくのだろう。

編集後記
車に乗らない私にとって、ミシュランとの接点はタイヤよりもガイドにあった。東京での特別な日の食事に、立地のわからない旅先の海外でミシュランの星をたよりにしたこともある。数は多くないけれどそこで“いい体験”をし、結果的にそれはミシュランへの信頼につながっていった。すぐに、かつ直接的に結果がでないこのやり方を100年以上も貫き通してきたミシュラン。いまでこそ「オウンドメディア」が企業で当たり前のように語られるようになったけれど、このミシュランの姿勢こそ、企業ブランドを広める遠い近道なのかもしれない。これからは企業が作り出す体験もメディアになる時代。広義の意味でこれから、企業がどんなメディアを生みだし、育てていくのか楽しみです(徳瑠里香)。

おわり。

 

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